キングズ・ランディング
キングスレイヤーと小評議会
キングズ・ランディングへ到着し、”王の手(キングズ・ハンド)”として赤の王城(レッド・キープ)の門を抜けたエダードを待っていたのは「王の小評議会に出席せよ」という命令だった。
「長旅の疲れを癒やすことも許されないのか・・・・」
渋い顔をして小評議会へ向かうエダードは、ひと足早く到着していたジェイミーと王の玉座の前で対面した。
「王の手の役目は王の糞を始末すること」と揶揄するジェイミーに、「美しい鎧に傷ひとつないのは敵を選ぶのが巧いからだ」と返すエダード。
エダードの父と兄は、この場所で狂王(マッドキング)エイリス・ターガリエンに敗れ、火あぶりというむごたらしい形で命を奪われた。エダードにとってジェイミーは、その惨劇を500名の騎士とともに傍観していた腰抜けでしかない。
後にそのエイリス・ターガリエンを殺害したのがジェイミーであり、ゆえに”王殺し(キングスレイヤー)”と呼ばれているのだが、背後から襲うという非道なまねをしたジェイミ-をエダードは認めていない。
「正面から刺したら認めてくれたのか」
「狂王(マッドキング)に、よく仕えていたおまえがそれを言うのか」
エダードはそう言ってその場を離れた。
会議の間でエダードを迎えた小評議会のメンバーは4名。財務大臣のピーター・ベイリッシュ。諜報機関のトップである宦官のヴァリス。ロバートの弟で嵐の果ての城(ストームズ・エンド)城主のレンリー・バラシオン。これまで4代の王に仕えてきたグランドメイスター(上級学匠)パイセル。
ロバート王不在のまま議題に上がったのは、エダードの”王の手(キングズ・ハンド)”就任祝いの武芸競技会開催について。ロバート王が亡きジョン・アリンの再三にわたる忠告を無視して散財を続けたため王家の財政は火の車で、賞金を用意するにはすでに莫大な借金をしているラニスター家に泣きつく以外に方法がないと聞き、エダードは愕然とする。
母子の思惑
腕の包帯を取り替えてもらいながら「ぼくはスタークの娘の前で大狼(ダイアウルフ)に噛みつかれて叫んだだけだ」と話すジョフリーにサーセイは言い聞かせる。
「あなたは獣を殺した。そしてお父様の友情に免じて娘を許してあげたの。玉座に就く前、お父様は皆に反逆者と呼ばれました。でも王になれば、事実は思いのままになるの」
「結婚は必要?」
「ええ。サンサは若くて美しいわ。気に入らなければ会うのは公式の場だけにして、プリンスとプリンセスさえ作ればいい。派手な化粧の娼婦がよければ寝ればいい。好奇な生娘だって事欠かないわ。世界はあなたの思い通りになるのよ。だからサンサにはやさしくしなさい」」
そんな母親にジョフリーは反論する。
「権限を与えすぎたせいで、北部はつけあがっている。税を倍にして1万の兵を国王軍に差し出させるべきだ」
「国王軍?」
「それぞれの公が軍を率いるなど野蛮でしかない。我々は王に忠誠を誓う独立した兵を持つべきなんだ」
「北部が抵抗したら」
「潰します。そしてウィンターフェル城には王に忠実な城主を置きます」
「そのとき、1万の北部兵はあなたのために戦うかしら?」
「国王軍ですから」
「あなたが故郷に攻め込み、仲間を殺したのに?それでは制圧は無理よ。北部は広くて強大よ。ひとたび冬が来ればあなたの軍では太刀打ちできない。よき王は、敵から引くときと倒す時を見きわめるのです」
「では母上もスターク家は敵だと?」
「一族でないものは、すべて敵よ」
父娘の絆
三叉鉾河の一件以来、アリアはずっと苛ついていて、食事の時もナイフをテーブルに突き刺す始末。そして「サンサもジョフリーも、王妃もハウンドもあいつらみんな嘘つきで大嫌い!」と気持ちをぶつけるが、一方で「わたしがあの時、剣の相手を頼まなければマイカーは殺されることはなかった」と自分を責める。
エダードはそんなアリアとしっかりと向き合って諭す。
「王の御前に呼ばれたサンサは、ああ言うより他になかった。いずれ夫になるプリンスが嘘をついているとは言えないんだ。だからサンサを悪く思うな。スターク家なら我が家の家訓はわかるな。”冬来たる”だ。今、我々は危険な状態にある。互いを大事にして家を守るんだ。身内で争っているときではない」
アリアが剣術に興味を持っていることを知ったエダードは、元ブレーヴォスの海頭(シーロード)の筆頭剣士シリオ・フォレルと引き合わせる。
シリオは自らをダンスの師匠と名乗り、少女には重すぎる木剣を使って剣の持ち方、握り方を教え、すぐに実践形式で稽古を始める。
それを陰で見守っていたエダードは、アリアの騎士としての才能に驚く。
短剣の持ち主は
キャトリンはロドリックを伴い、密かにキングズ・ランディングに入った。しかしその動きは筒抜けだったようで、到着と同時に王家の騎士に道を塞がれ、手紙を渡された。
差出人はピーター・ベイリッシュだった。
娼館に招かれたことに激怒するキャトリン。しかしそこにヴァリスが現れ、ブランの命を狙った証拠である短剣のことまで情報が漏れていると知り、言葉を失う。
ロドリックが差し出したその短剣を見て、にやりと笑ったのはベイリッシュだった。
短剣は彼のものだったが、プリンスの命名日を祝う馬上槍試合でジェイミーに賭けて失ったという。
「賭けの相手はティリオン・ラニスター。小鬼(インプ)だよ」
ウィンターフェル城から使い鴉によって「ブランの意識が戻った」と吉報がもたらされた日、エダードはベイリッシュの案内で娼館へ。バカにされたと思ってベイリッシュの首を締め上げるエダードを止めたのは、ウインターフェルにいるはずのキャトリンだった。
エダードに短剣のことを伝え、真相を明らかにしようとするキャトリンに、ベイリッシュは「王妃の弟に疑いを持つだけで反逆罪になる。実行犯が死んでいるのだからティリオンが盗まれたと主張すればそれまで」と忠告。
しかし昔からキャトリンに想いを寄せるベイリッシュは協力すると約束する。
任務を果たしたキャトリンは、サンサとアリアに会うことなく、ロドリックとともにキングズ・ランディングを後にした。そしてエダードは短剣の剣をロバートに話すと決める。ロバートが王となった今も変わらずにいてくれることを願いながら。
何人だってこの手で殺してやる!
「考えなしにもほどがあるわ!相手は10歳の子どもよ!!」
部屋を訊ねてきたジェイミーをサーセイは激しく責める。
ブランが意識を取り戻したことはすでに伝わっており、サーセイは記憶を取り戻した時のことを危惧しているのだ。
しかし、ジェイミーは動じない。それどころかサーセイを後ろから抱きしめながらささやくように言った。
「もし話したら殺す。スタークもロバートも、何人だってこの手で殺してやる。この世がおまえと俺の二人だけになるまでな」
ウィンターフェル
待っていたのは絶望
ブランは奇跡的に意識を取り戻したが、塔から落ちた時の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。もう足は動かないとわかり「死んだ方がマシだ」と絶望する弟に、ロブは「そんなことを言うな」と声をかけることしかできない。
黒の城(カースル・ブラック)
ジョン・スノウ閣下と呼ばれて
黒の城(カースル・ブラック)に入ったジョン・スノウは、武術指南役のアリザー・ソーンの管理下に置かれ、中庭で先輩たちと剣を交えていた。スターク家の落とし子であるジョンをアリザーは『スノウ閣下』と嘲笑したが、冥夜の守人(ナイツ・ウオッチ)の多くは行き場のない罪人たち。幼い頃からウィンターフェル城で腕を磨き続けてきた彼と互角に戦える者はそう多くはなく、ジョンは良くも悪くも一目置かれる存在になった。
しかし、ジョンの気は晴れない。黒の城(カースル・ブラック)は想像していた以上に居心地の悪いところであり、それがわかっていながら送り出したエダードに対しても憤りを感じているのだ。
ベンジェンはそんなジョンを”壁”の上に誘い、「おまえには俺が見せてやりたくてな」と言って広大な下界を一緒に眺める。
そして黒の城(カースル・ブラック)を出て、不穏な報告が相次いでいる”壁”の北側へ、哨士長(ファーストレンジャー)として偵察に行くと伝える。
ジョンは一緒に連れて行ってほしいと頼むがベンジェンは「哨士(レンジャー)でもないおまえを連れていくことはできない」と突き放す。
「少しくらい剣ができるからといって自惚れるな。行きたければもっと強くなれ。自力で這い上がってこい。帰還したら話そう」
その日からジョンは変わった。罪人上がりの冥夜の守人(ナイツ・ウオッチ)たちに、積極的に剣術を指南するようになったのだ。
黒の城(カースル・ブラック)の窮状
”壁”の向こうに発つ前、ベンジェンは、時には酒を飲み、時には剣術の稽古を見学しながら黒の城(カースル・ブラック)での日々を過ごすティリオンに”壁”の北側で起きていることを話す。
「哨士(レンジャー)の半数は”壁”の北側で、野人に襲われ、病に倒れ、寒さに凍えて死んでいく。その間に太った貴族たちは悠々と夏を楽しんでいるんだ」
「冥夜の守人(ナイツ・ウオッチ)には敬意を表しているし、”壁”の向こうで生まれた者とこっち側で生まれた者に大きな差はない」
ティリオンは反論するが、ベンジェンは「”壁”の向こうに足を踏み入れたこともないやつが、知った口をきくな」と吐き捨てて部屋を出ていった。
再び罪人集めの旅に出るヨーレンとともにその姿を見送ったティリオンは「俺のことを好きになってきたようだ」と笑い、「城や高級宿に泊まりながら王都まで行こう。ラニスターと一緒なら、どこへ行っても断られないぞ」とヨーレンを誘う。
そんなティリオンに、盲目のメイスター(学匠)・エイモンと冥夜の守人(ナイツ・ウオッチ)総帥のジオー・モーモントは黒の城(カースル・ブラック)の窮状を訴える。
「”壁”を越えてくる野人が増えている。彼らはホワイト・ウォーカーに怯え、南に逃れてくるんだ。哨士(レンジャー)の一人もホワイト・ウォーカーを目撃し、スターク公に処刑される寸前までそう訴えていたらしい」
「今、”壁”の向こうの者たちから国土を守ることができるのは冥夜の守人(ナイツ・ウオッチ)しかいない。しかし、未熟な若者と疲れた老骨たちの軍勢になりつつあり、数も1000人を切っている。このままでは他の城に配備できない。十分な武器と食料も与えることができない」
「君の姉上は、王の隣に座っている。助けがいると伝えてほしい」
ドスラクの海
ヴィセーリスの失墜とデナーリスの懐妊
広大な平原を進むデナーリスは、ふいに土と草の匂いをもっと感じてみたいという気持ちになり、「私が進むと言うまでそのまま待機せよ」とジョラーを通じて部族(カラザール)全員に命じた。
馬を下り、ひとりで平原を歩くデナーリス。そこへ金切り声を上げ、馬を駆って突進してきたのはヴィセーリスだった。「おまえ!よくも!!」
彼は馬を飛び降りると同時に刀を抜き、デナーリスの喉を締め上げた。
「ドラゴンに命令するな!おれは七王国の君主だ。ドスラク人やあばずれ女の命令は受けない」
そのヴィセーリスの首を細い皮の鞭が絡め取り、後ろに引き倒した。部族の若者ラカーロが女王(カリーシ)であるデナーリスを守ったのだ。首に巻きついた鞭をはずそうと、うめき声をあげて転げ回るヴィセーリス。そばにはジョラーと侍女のイニがいて、イニがラカーロの言葉を訳してデナーリスに伝える。
「殺しましょうかと言っています」
「だめ!」
「耳を切り取れば学ぶと言っています」
「彼を傷つけないで」
ラカーロが仕方なく鞭を外すとヴィセーリスが立ち上がり、ジョラーに向かって叫んだ。
「何をしている!ドスラクの犬どもを殺せ!!俺はおまえの君主だぞ!」
しかしジョラーはそれを受け流しデナーリスに聞いた。
「部族(カラザール)のもとに戻りますか、カリーシ?」
デナーリスは白馬にまたがり、ジョラーとともにその場を離れる。
ヴィセーリスは「おまえ、歩け」と言われ、ラカーロに馬を取り上げられた。
やがてデナーリスが子を宿していることがわかる。男の子だと確信しているデナーリスを見てドロゴも素直に喜ぶ。
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