洞窟の丘(ホロウ・ヒル)
有罪ならば制裁を、無実ならば強さを。
『光の王』(ロード・オブ・ライト)よ、暗闇にいる我らを守りたまえ。
『光の王』(ロード・オブ・ライト)よ、我らの上に御顔を輝かせたたまえ。
この者が有罪ならば制裁を。無実ならば強さを。
『光の王』(ロード・オブ・ライト)よ、我らに知恵を。
夜は深く、恐怖に満てり。
ソロスたちの祈りが終わると、サンダー・クレゲインは剣と樫の楯を受け取り、ベリック・ドンダリオンは長剣の刃を左の手のひらに当て、ゆっくりと引いた。傷口から流れ出た黒い血は鋼を濡らし、剣に炎を走らせた。
燃えさかる剣を前に防戦一方となるサンダー。しかし徐々に攻勢に出て、ベリックの楯を引き裂いた。ベリックも盛り返し、サンダーの楯は音を立てて燃え上がった。
「有罪!」「有罪!」団員たちは唱和し、アリアは叫んだ。「殺せ!」
しかし、次の瞬間、サンダーが渾身の力で振り下ろした剣は燃える剣を真っ二つに折り、ベリックの肩から鎖骨までを切り裂いた。鮮血が吹き出し、ベリックはゆっくりと倒れた。サンダーの無実が証明されたのだ。
ソロスがすぐに駆け寄り、祈りを唱える。
「主よ、この者を光で暗黒から連れ戻し、炎を戻したまえ――」
アリアは剣を抜き、火が点いた楯が抜けず転げ回るサンダーに襲いかかるが、ジェンドリーが止めた。それを見て「こいつらの神はガキより俺の味方だ」とほくそ笑むサンダー
――今はな。
サンダーがぎょっとして声がした方向を見ると、ベリックが起き上がっていた。
無実が証明され、金を寄越せと凄むサンダーに頭巾をかぶせて送り出し、静けさを取り戻した洞穴では、ジェンドリーがベリックの鎧を修理していた。彼は鍛冶職人として旗印なき兄弟団(ブラザーフッド)の仲間になると決めたのだ。
アリアはリヴァーラン城まで行けばロブ・スタークに仕えることができるのにどうして、と理由を聞く。すると彼はこれまでずっと誰かに仕えてきたが、もう嫌だと答えた。そしてベリックは皆に選ばれたリーダーであり、旗印なき兄弟団(ブラザーフッド)は誰もが家族、兄弟。俺がほしくてたまらなかったものがここにはあると言った。
これからどうするのかと訊いたアリアに、ソロスは「朝が来たらリヴァーラン城に向かう。我々は兄君の援助を受け、君は帰ることができる」と言った。アリアが私を人質にして身代金を得るということかと訊くと、ソロスは「そうであって、そうではない」ち答えた。
「俺のことが怖いか?」と言ってベリックも加わり、ソロスに「俺を生き返らせたのはこれで何度目だ」と聞いた。ソロスは6回目だといい、誰にどこで殺されたのかをアリアに話して聞かせた。蘇るたびに何かが削れていくというベリックに、アリアは訊く。
「1度だけでいいから、首を斬られた人を生き返らせることはできない?」
「それは無理だろうな」と言ったのはソロスだった。
「ネッド・スタークは立派だった。どこかで安らかに眠っているのだろうから、こんな思いはさせたくない」
ベリックは心からそう思っていた。

ミルクウォーター河周辺
男と女
オレルの前で、トアマンドに”壁”の見回りについて説明しろと言われ、ジョンは答える。
「4人で回る。点検役の工士(ビルダー)2名と哨士(レンジャー)2名。見回りの頻度ははまちまちだ」
するとオレルが口を開いた。
「”壁”の砦は19ある。人がいるのは?」
「黒の城(カースル・ブラック)、海を望む東の物見城(イーストウォッチ・バイ・ザ・シー)、影の塔(シャドウ・タワー)の3カ所。黒の城(カースル・ブラック)には1,000人いる」
「嘘だな」
オレルの言葉を聞いてジョンは薪をたたきつけて詰め寄る。
「俺がおまえを殺したら鷲はどうなる?糸の切れた凧のようにどこかへ飛んでいくのか?それとも地面にくたばるのか?」
イグリットがその場を治めようとするが、トアマンドがオレルを投げ飛ばしてジョンに言った。
「おまえが気に入った。だが、もし嘘だったら喉から内臓をを引きずり出してやるからな」
「1,000人だ」ジョンはもう一度言った。
その後「あんたは私に貸しができた」と言ってイグリットはジョンの剣を奪って駆け出し、温泉が湧く洞窟へ誘い込んだ。そして素早く服を脱ぐとジョンを誘った。ここまで来てためらうジョンに、噛みつくようなキスをするイグリット。
ジョンにとって初めての女になったあと、イグリットは言った。
「戻らなくてもいい。ずっとこの洞窟にいたいよ・・・・・・」
ハレンの巨城(ハレンホール)
キングスレイヤーの真実
ボルトン家の傭兵たちはジェイミー・ラニスターとブライエニー・タースを、ハレンの巨城(ハレンホール)へ送り届けた。ルース・ボルトンはブライエニーの縄を解き、ジェイミーの右腕を治療するように命じた。
メイスターの称号を剥奪された男の腕を信用できないジェイミーは麻酔効果のある芥子の汁を服用することを拒み、大声を上げて激痛に耐えるという選択をした。
ジェイミーはブライエニーと同じ湯殿に浸かり、無事にキングズ・ランディングへ戻ることができなかったと嘆き「レンリーが死んだのも無理はない」と呟いた。
浴槽の湯を波立たせて立ち上がり、どこも隠さずにジェイミーを見下ろすブライエニー。ジェイミーは許しを請い、信頼しているから争うのはやめようと言った。湯殿に身を沈めても憤懣やるかたない表情で睨みつける彼女にジェイミーは「この17年間、俺と会った者は例外なくそんな顔をした。王殺し、誓約破りと言ってな。俺は忌み嫌われている」と自嘲する。
そして彼は”キングスレイヤー(王殺し)”と呼ばれることになった日のことを――鬼火(ワイルド・ファイア)で多くの人々を焼き殺してきた”狂王(マッドキング)”エイリス・ターガリエン殺害の真相を、ブライエニーに打ち明けた。
ロバート・バラシオンが三叉鉾河(トライデント)でレイガー・ターガリエン(エイリスの息子・デナーリスの兄)を葬った後、エダード・スタークはロバートの前衛部隊とともに急いて南下してきたが、タイウィン・ラニスターの軍勢が先にキングズ・ランディングに到着した。
ヴァリスは止めたが「西部総督が王を守るために来たのです」というグランドメイスター・パイセルの進言を信じたエイリスは、城門を開けた。ところが、これまでにエイリスから受けた非礼の数々を根に持っていたタイウィンは、この戦から身を引き、勝ち馬に乗ると決めていたのだ。
エイリスの”王の楯(キングズ・カード)”として赤の王城(レッド・キープ)の防衛を担っていたジェイミーは、これは負け戦になると確信。エイリスに使いを送って講和を結ぶ許可を求めたが、エイリスは「おまえが謀反人でなければ、タイウィン・ラニスターの首を届けろ」と言って引かなかった。
ジェイミーは、キングズ・ランディングの至るところに作られた鬼火(ワイルド・ファイア)の貯蔵庫の位置を知り尽くしている火術師(パイロマンサー)ロッサートを殺し、エイリスと他の火術師を結ぶ使者を殺し、エイリスも殺した。その喉を切り、背中を剣で突き刺して。なぜならジェイミーは、すべてを焼き尽くせば自らはドラゴンとして蘇り、敵の全てを灰にできる――エイリスがそう信じていると知っていたからだ。
事を終えた後、そこへやってきたのがエダード・スタークだった。彼はその場を見て、ジェイミーを「有罪」だと判定した。逃げる王の背中に剣を突き刺した”王の楯(キングズ・カード)”―――以来、ジェイミーは畏怖と侮蔑を込めてキングスレイヤーと呼ばれるようになった――。
「何の権利があって、狼が獅子を裁くのか!?」
ジェイミーはそこまで言うと気を失った。傷口を湯につけたため、目が回ったのだ。
キングズ・ランディング
探り合い
タイレル家に関する進言をタイウィンに退けられたサーセイは、利害が一致すると踏んでピーター・ベイリッシュに相談。王都を発つ前にタイレル家の本当の狙いを探ってほしいと頼む。
王都の財政難に頭を悩ませるティリオンはレディ・オレナを呼び、戦時である現在の多大な貢献に感謝する。
そして、さらなるお願いという形で王の婚礼にかかる経費負担を頼み、半分持つという約束を取り付ける。
ロラス・タイレルとの結婚話が進むのを楽しみにしながらもジョフリーの存在を気にするサンサに、マージェリーは「結婚したらすぐにその話を進める。ジョフリーは私のためなら喜んであなたを手放すわ」と断言。
しかし、当のロラスは、その日会ったばかりの若くて美しい従士オリヴァー――ベイリッシュが放ったスパイ――とベッドでもつれ合い、もうじき結婚することを漏らす。
ロラスとサンサの結婚話が水面下で進んでいることを知ったベイリッシュは、サンサに会い、再度、自分が王都を発つ時に一緒に来るべきだと進言。サンサは「ウインターフェルに戻りたいのはもちろんだけど、あなたに迷惑がかかるのが怖い」と答える。
マージェリーと同じ髪型に変えた彼女を見て、その話は聞かなかったことにしたいのだと理解したベイリッシュは「私はあなたの真の友人だから、残りたいのならかまいません。戻ったらまだ話しましょう」と言って引き下がった。
ラニスター家のために
タイウィンはサーセイとティリオンを呼び、ジョフリーの婚礼資金よりもはるかに重大な話をすると前置きした上でティリオンに言った。
「サンサと結婚して子を宿せ。これがおまえがほしがっていた戦の褒美だ」
カースターク家を失ったロブ・スタークはもう敵ではなく、弟たち(ブラン、リコン)も殺された今、ウィンターフェルはサンサのもの。北部のカギとなる彼女をみすみすタイレルに渡すことはない、だからサンサには別の夫を用意する、とタイウィンはいうのだ。
ティリオンは「父親を殺したジョフリーから解放されたばかりなのに私が夫になるなんて」と反発するが、怒り、抗ってもどうにもならないことを彼は知っていた。
そして「神々に感謝なさい。あなたには過分な話よ」と、したり顔で言ったサーセイには再婚してロラス・タイレルの妻になれ、そして子どもを産めと命じた。ハイガーデンの後継ぎとの婚姻により河間平野(リーチ)を抑えるのが目的だった。
サーセイは声を荒げて猛烈に反対するが、それを上回る声量でタイウィンは恫喝した。
「私の娘だろう!父親のいうことを聞いてロラス・タイレルと結婚しろ!そうすれば忌まわしい噂も収まるだろう」
ラニスターの名を汚してきた息子と娘は、唇をかみしめるしかない。
リヴァーラン城
北部を失った王
捕虜として地下牢に幽閉していた2人の少年――ウィレム・ラニスターとマーティン・ラニスターを、リカード・カースタークが殺害した。
「まだ少年だぞ!この子らが何をした!?」と激怒するロブ・スタークに、カースタークはジェイミーに殺された息子の復讐だと言い、キャトリンがそのジェイミーを逃がしたからこうなった、これが反逆なら、奴を逃がしたのも反逆だと主張した。
王への侮辱を続けるカースタークを、ブリンデン・タリーが殴り倒す。手を出すなとロブが止めると、口から血を流しながらカースタークはさらに続ける。
「そうだ。王に任せろ。小言を食らわせたら私を放免するだろうからな。それが反逆したものの扱い方だ。我らが北の王の――いや、北部を失った王のな」
ロブはカースタークを地下牢に閉じ込め、見張り役だった者は吊せと命じた。
ブリンデンたちが引き上げた後、エドミュア・タリーはこの事実は戦が終わるまで隠し通すべきだと進言するが、ロブはカースタークを処刑して事を公にすると主張。正直であることが正義だと考えているのだ。
そんなロブにタリサは、カースターク家の力を借りなければ戦は終わらないと主張。キャトリンとエドミュアも同調し、リカードを除名して人質にするべきだと言った。カースターク家が忠誠を誓い続ける限り、彼は生かしておくということだ。
しかし、ロブは信念を曲げることなく、父エダードの盟友であり、ジョフリーとも共に戦った功労者であるリカード・カースタークを自ら斬首した。
「私を殺し、呪われろ!おまえは私の王ではない!」
それがリカードの最期の言葉だった。
カースタークを処刑し兵力を半減させてしまったロブに、タリサは北へ戻り冬に備えるべきだと進言。しかしロブは、旗主だちは家に戻り家族とともに温かい時間を過ごせば2度と決起しないと断言。自らの失策は棚に上げ「決起したときの目的を失った北部軍は、言い争うことしかできない子どもの集まりだ」と吐き捨てる。
八方塞がりの状況のなかでロブが見出した最後の一手は、守備隊が手薄になっているキャスタリー・ロックを奪うこと。そのためにはラニスター側についていないただ1人の有力者であるウォルダー・フレイの協力を取り付けるしかないと考える。
ドラゴンストーン城
王の告白
スタニス・バラシオンは、妻セリースの部屋を訪れ、メリサンドルとの関係を告白しようとする。しかしセリースは『光の王』(ロード・オブ・ライト)のためにしたことは罪にはならないと言い、メリサンドルからすべてを聞いて感動のあまり涙が出たと話す。
そして、この世で生を受けさせてやれなかった3人の息子―――ホルマリン漬けにした3体の胎児の名前を順番に読み上げ、メリサンドルを遣わしてくれたことを神に感謝していると言った。
「メリサンドルがあなたに与えたものを、私は何も――」
スタニスはその言葉を遮り、一人娘のシリーンの部屋へ行った。
シリーンは不治の病と言われる灰鱗病を患っており、顔の左半分だけ石化人化が進行している。その彼女がずっと慕っているのが玉葱の騎士――ダヴォス・シーワースだった。
スタニスは「ダヴォスは反逆者で、罪を犯したから地下牢で朽ち果てる」と告げる。落ち込むシリーンにスタニスは「奴のことは忘れろ」と言い残し、部屋を出ていった。
ダヴォスは地下牢に会いにきたシリーンに、自分は王に逆らった罪人だからここに来てはいけないと話す。しかしシリーンは「友達だから関係ない」と言い、『征服王エイゴンの歴史とウェスタロス征服」という本を渡す。ダヴォスが「字が読めません」と告白すると、シリーンは「教えてあげる」と笑った。
アスタポア~ユンカイ
名前
デナーリスは20名ほどの士官から指揮官に選ばれたグレイ・ワーム(灰色の蛆虫)と対面。デナーリスが「あなたたちはもう奴隷ではないから、好きな名前に変えていい。生来の名前でも」と言うと、グレイ・ワームは答えた。
「生来の名前は呪われています。その名の時に奴隷にされました。でも”灰色の蛆虫”はデナーリス様に解放された時の名ですから」
バリスタン・セルミーはジョラー・モーモントに「生涯で1度だけでいいから、心から信じることができる王のために戦いたい」と、デナーリスに仕えた理由を説明。そして政治的な面は経験がある相談役が支えるべきだと主張し、男たちを奴隷として売却して北部から追放された過去を持つジョラーを静かに攻撃する。
「我々がウェスタロスに凱旋した時、デナーリスの隣にいるあなたを見て、民衆が受け容れてくれるかどうか・・・・・・」
「我々?女王様の命を狙ったロバート王に仕えておいてよく言えるものだ」
「あなたが望むのは彼女の擁立では?」
「そうだが、新参者のあなたを信用しているわけではない」
「本当に忠実な者は、やるべきことをやるものですよ。どんな犠牲も厭わずにね」
「あなたは総帥ではない。流浪の民だ。私は女王様に従うだけです」
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