DATA
プロデュース:太田 大、荒井俊雄 演出:西谷 弘、野田悠介、永山耕三
脚本:黒岩 勉 音楽:眞鍋昭大
原作:『モンテ・クリスト伯』(アレクサンドル・デュマ/1841年)
キャスト
柴門暖・・・ディーン・フジオカ
南条幸男・・・大倉忠義
目黒すみれ・・・山本美月
守尾信一朗・・・高杉真宙
安堂完治・・・葉山奨之
入間未蘭・・・岸井ゆきの
江田愛梨・・・桜井ユキ
土屋慈・・・三浦誠己
寺角類・・・渋川清彦
神楽清・・・新井浩文
ファリア真海・・・田中 泯
柴門 恵・・・風吹ジュン
守尾英一朗・・・木下ほうか
入間瑛理奈・・・山口紗弥加
入間貞吉・・・伊武雅刀
神楽留美・・・稲森いずみ
入間公平・・・高橋克典
底なしの資金を使って知略の限りを尽くし、自分を地獄に落とした者たちへの復讐を・・・!
誰かを恨んで生きてきたわけではないですが、わたしが最も感情移入できる物語のジャンルは復讐劇。でも、このドラマの原作は不覚にもまだ読んだことがなかったのですよ「モンテ・クリスト伯」(アレクサンドル・デュマ)。「巌窟王」というタイトルは遠い昔に聞いたような気がするので、もしかしたら中学や高校の国語の教科書に掲載されていたのかもしれませんが、まったく憶えておりませんので読んでいないのと同じ。「原作があるものは先に読む」がドラマフリークとしての信条ですが、誠に不本意ながらこの作品についてはまったく予備知識のない状態で映像を視聴することになりました。
悲劇の始まりは2003年の春。物語の舞台は小さな漁師町。明るく真面目な漁船乗組員だった柴門暖は、遭難時の事故で亡くなった外国人船長・バラジ・イスワランから手紙を預かっていたことからテロ組織との関与を疑われます。そして彼の存在が邪魔になってきていた船員の神楽清、その後輩で売れない役者の南条幸男の共謀により、同じ町で喫茶店を経営する目黒すみれとの結婚式当日に逮捕され、そのテロ組織に資金を提供していた世界的なファンド会社の代表・入間貞吉の息子で警視庁の刑事部長・入間公平の策略によって異国の地に投獄された暖は、激しい拷問を受けた後、地下の独房に幽閉されてしまいます。
それから8年の月日が流れ、精根尽き果て命の灯火が消えるのを待つのみだった暖は、地下牢からの脱出計画をひとりで密かに続けてきたラデル共和国の元大統領・ファリア新海と出会い、気が遠くなるような掘削作業を手伝いながら語学力をはじめさまざまな知識と教養を吸収していきます。そして脱獄計画実行の直前に力尽きたファリアから450億ドル(4兆5000億円)という莫大な隠し資産を受け継いだ暖は、脱獄後にモンテクリスト・新海と名乗り、世界屈指の投資家として日本に帰国。底なしの資金を使って知略の限りを尽くし、自分を地獄に落とした者たちへの復讐を行っていきます。
ドリフターズの爆破コントを思わせる暖の白髪メイクから、覚悟はしていたけど・・・。
序盤(2話中盤あたりまで)は悪くなかったと思うのですよ。神楽と南条が暖に対し、ほぼ時を同じくして抱く「おまえさえいなければ・・・・・・!」という妬み、嫉みの心理描写はとても良かったし、監獄で暖とファリアが出会い、信頼関係を築いていくところも一本調子ながらも時間を使って描かれていましたからね。だからこそ、浮浪者同然の姿で漁師町にたどり着いた暖が、その姿のまま香港の銀行へ飛び、暗証番号を入力しただけでファリアの遺産を受け取るという雑な展開にがっかり。無一文だったはずなのにどうやって香港へ?香港の銀行は身分を証明するものがなくても貸金庫を開けてくれるわけ?
あきれたのを通り越して膝が折れたのはこの後。復讐を果たすために舞い戻ったモンテクリスト・新海が柴門暖であることに、かつての仲間や恋人は誰一人として気づかないのです。そこに至るまでの雑な展開と、ドリフターズの爆破コントを思わせる暖の白髪メイクから、覚悟はできていましたが・・・・・・あまりにもひどい設定。これにはスマホをもてあそびながら見ていた視聴者も、思い思いの台詞で猛然と突っ込みを入れたことでしょう。
その点については、監督の西谷弘がマイナビニュースのインタビューでこう答えています。
――このドラマの視聴者で最も気になっている部分が、数年たった後のディーンさんに気づかないなんておかしいだろ!という部分だと思います(笑)。でも逆に誰も気付いてくれないからこそ復讐に至る。一方山本美月さん演じるすみれさんは気付いている…だから復讐できない、というそんな演出の意図を感じましたがどうでしょうか?
その部分は、整形したのかとか昔はすごく太っていたのかとか、それを特殊メイクでやろうとかそういうのをいろいろ考えました。だけど、それも全部小手先だし、見る人にとっては同じ役者さんだってわかってるわけだし、そこは堂々といけばいいと思いました。もちろんそういう気付いてくれないからという意図もありますが、意外と人間って他人のこと覚えてないなと思ってて、そういうところもあるのかなとも考えました。
第2話の最後、葬儀のシーンで暖(ディーン・フジオカ)がみんなと再会することになります。最初、暖はサングラスをしていて顔が見えない、誰だか分からない感じにしてるんですが、神楽(新井浩文)と南条(大倉忠義)の目の前に現れた時に、気付くに決まってるっていうのを逆手にとってやろうと思って、そこであえてサングラスを外して、なるだけ近くに顔を接近させる芝居をつけたんですね、それでも向こうがわからない、こんなに近くに行っても気づかない、だから復讐してやろうと思う。それは、存在を忘れられたというか、存在が完全に消されてしまったんだという、そのむなしさというか。だから、彼が脱獄して帰ってきて、村にウェルカムで迎えられたら、たぶん復讐しなかったと思う。だけど、一番悔しいのは死んだという情報があったにせよ、ただ十何年いなかっただけで存在が消されてしまうんだという、そういうところに復讐の一番の原点があるという風にしました。
だけど、その時すみれだけはニアミスですれ違わせてるんですね。たかがボートがすれ違うだけの部分、暖の背中を見せるだけなのに何かを感じとるすみれという演出にしました。特に第2話は、いろんなことが集約された回になってると思います。
マイナビニュース:『モンテ・クリスト伯』演出の秘密…西谷弘監督をマニアックに直撃
「なぜ気づかないのか」という部分を視聴者がもっと健全に考え、想像できるように工夫すべきだった。
なるほど。わたしはてっきり、視聴率が人気や評価の指標にならない時代だから、笑われようとたたかれようと、SNSで話題になりさえすればいいという思考のもとで制作されたと思ったのですが、そうではなかったのですね。それでも、傲慢で場当たり的な演出という印象は拭えません。視聴者に考えてもらう余地を残すというのもひとつの手法ではありますが、この作品ではことが起きる前と後を同じ役者が演じることが分かっているんだから。「10数年の歳月はかつての仲間や恋人の存在さえもないものにしてしまうようですな」と、どこかで暖に呟かせるなりして、「なぜ気づかないのか」、という部分を視聴者がもっと健全に考え、想像できるように工夫すべきだったと思います。でなければ、役者があまりにも気の毒。
それでも、そこを笑い飛ばして(あるいは気づかないフリをして)先に進むことができる寛容な視聴者がたくさんいるようで、
データニュース社が行っている「テレビウォッチャー」の満足度調査によると、第7話(5月31日放送)までの平均満足度は3.80(5段階評価)と高満足度の基準の3.7を上回り、4月スタートのゴールデン・プライム帯(19~23時)ドラマ第4位という高位置。そして、初回3.44だった満足度は第6話と第7話で最高の3.96を記録しており、満足度の上昇幅(0.52ポイント)は、今期暫定トップの盛り上がりだ。
(マイナビニュース:『モンテ・クリスト伯』演出の秘密…西谷弘監督をマニアックに直撃:より抜粋)
らしいです。
6月14日(木)放送の最終回(第9話)は2時間スペシャル。原作を読んでいない私は、回収できていないいくつかの謎がどういう形で解明されるのかという、その1点だけを楽しみにしています。
参考まで書いておくと、復讐劇のジャンルに含まれるドラマのなかでわたしが最も好きな作品は『眠れる森』(1998年・フジテレビ)です。
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