サウスダコタ
“ミスターC”とともにヤンクトン連邦刑務所を出たレイ・モンローは、車に設置された追跡装置を無効化したパートナーに感謝し、ダーリヤの居場所を聞く。ダーリヤには安全な場所についたら連絡することになっていて、これから彼らが”農場”と呼ぶ場所に向かうと聞いたレイは同意する。
「ヤツらはこのまま逃がしてはくれねえ。すぐ捜し始める……」
「俺のほしいものは?」
話を遮るように”ミスターC”が訊く。レイは答える。
「すべての情報を正確に記憶している。これは価値ある情報だ。相当な大金で売れる」
しばらくそのまま車を走らせたあと、レイは”ミスターC”の指示に従ってハイウエイを降り、闇の中を進んでいく。未舗装の道路に入ったタイミングでレイは小便をすると言って車を停める。
レイが車から降りると、”ミスターC”はあらかじめマーフィー所長に指示しておいた拳銃をコンソールから取り出し、銃弾が装填されているのを確認。車を降りてレイの後ろに立つ。
「レイ。情報を教えろ。50万ドルは諦めろ」
レイは振り向き、拳銃を構える。
“ミスターC”は引き金を引くが、銃弾は発射されない。
「引っかかったな、クソ野郎」
レイは”ミスターC”に銃弾を浴びせた。
仰向けに倒れて動かなくなった”ミスターC”。レイはとどめをさすために近づくが、それは叶わなかった。森の奥から無数のウッズマンが現れ、”ミスターC”を取り囲んだのだ。銃弾を浴びた”ミスターC”を抱きかかえ、腹部の血を顔に塗りたくるウッズマンたち。レイは腰を抜かしたまま後ずさりしてその場を離れた。
車に乗り込んだレイはスマホで報告を入れる。
「フィリップ。レイだ。ヤツは死んだと思う。でも助けが来たから確かじゃねえ。それからヤツの中にあるものを見た。それがすべてのカギかもしれねえ。もし追ってきたら例の場所で殺す」


ツイン・ピークス
ロードハウスではNine Inch Nailsが”SHE’S GONE AWAY”を演奏している……。
映像についての推測
1945年7月16日 午前5時29分。ニューメキシコ州ホワイトサンズ。アメリカ合衆国が人類史上初の核実験を実施した日時と場所です。第2次大戦中、合衆国は「マンハッタン計画」と呼ばれる極秘の原爆開発計画を進めており、この実験を行った直後の8月、日本の広島と長崎に原爆を投下しました。
コードン・コールのデスクの後ろにも巨大なキノコ雲の写真が飾ってありますので、この原爆投下の翌年、この世に生をうけたデヴィッド・リンチにとっては、生と死を考える上で避けることのできない出来事なのでしょう。
コンビニエンスストアに出入りするウッズマンたち。
コンビニエンスストアとウッズマンは『ローラ・パーマー最期の7日間』で、FBI捜査官フィリップ・ジェフリーズによって語られています。「ジュディのことは話したくない」と前置きした上でコンビニの上で行われた集会を見たと証言する場面ですね。この時のウッズマン(木こり)は顔や衣服は普遍的ですが、このシリーズでは黒い陰のような存在になっています。
また、旧作ではクーパーの夢に出てきたマイクが「我々は人間と暮らした。君らの言うコンビニエンス・ストア。その上で暮らした。言葉通りの意味だ。俺も悪魔に魅入られた。左腕に入れ墨を・・・だが神の御前に立って俺は変わった。腕を切断した」と話しています(第2章)。
“ミスターC”は刑務所から出る前、ボブと一緒にいました。その”ミスターC”がレイに撃たれた時、みんなして駆け寄って介抱したことから、ウッズマンたちは今でもボブに近しい存在なのでしょう。
頭部にちいさな角のようなものを持つエクスペリメントが吐き出した物体のなかにボブの顔が。これは、核実験によって誕生した(あるいは目覚めた)エクスペリメントが、ボブという悪魔を創出した瞬間でしょうか。エクスペリメントの頭部の形状は、”ミスターC”がダーリヤを殺害する前、彼女に確認したカードに描かれていた図柄と同じです。ロッジを出たクーパーを追ってニューヨーク・シティに出現し、サム・コルビーとトレーシー・バーベラトを惨殺したのもそうなのでしょう。”ミスターC”が欲していた情報もこれに関係があるのでしょうか……?
近づいてくる黄金の物体。これまでの物語のなかで近しいものとしては、ロッジへ連行されたダギー・ジョーンズが消滅した後、翡翠とともに残された黄金色の玉があります(第3章)。違いとしては、形。ダギーが残した方は完全な円形でした。また、それを拾ったマイクは、翡翠の指輪はテーブルに置きましたが、黄金の玉は持ち去っているんですよね……。
女性はセニョリータ・ディド。BGMはPendereckiの『Threnody for the Victims of Hiroshima』。メーターのようなものが2つ付いたいびつな円柱状の装置は、ロッジを出たクーパーがナイドに導かれてたどり着いた宇宙のような空間にもありましたね。レバーを引いたナイドは全身に電流が走ったような感じになって空間に放り出され、転落していきました(第3章)。
階段を上ったところにある別の部屋で、核実験によってボブが生まれたことを知った巨人は、悪魔を押さえ込む手段として、希望として、ローラ・パーマーを創出し、セニョリータ・ディドと協力してそのオーブを地球——合衆国に送り込んだ、ということでしょうか。ちなみにローラ・パーマーの生年月日は1971年7月21日。核実験から26年後です。
1956年8月5日 ニューメキシコ
1956年8月5日。核実験から10年後のニューメキシコ砂漠では、カエルとゴキブリとバッタを合わせたような得体の知れない一匹の生物が卵から孵化。砂漠を移動し始める。
時を同じくして、ウッズマンたちがどこからともなくやって来る。彼らは道ゆく車を停めては、たばこを手にして訊く。
「火はあるか?」
運転手は叫び声を上げて逃げ出す。
地元のラジオ局KPJKは、プラターズの『マイ・プレイヤー』を流している。
「火はあるか?」
ウッズマンはたばこをくわえて局内に入り、受付の女性の頭を握りつぶす。さらにウッズマンはDJブースに入り、DJの頭を同じようにして握る。そして彼はマイクを引き寄せて繰り返す。
「これは水だ。そしてこれは井戸だ。たっぷり飲んで中に降りろ。馬は白目だ。その中に闇がある」
(吹替版:これは水だ。そしてこれは井戸だ。すべて飲み干し、降りてゆけ。馬は白目で中は闇だ)
ラジオの視聴者は、次々と意識を失って倒れていく。そのなかに、13歳の少女がいた。ベッドの上でウッズマンのマントラを聴いているうちに意識を失った彼女の口に、砂漠で孵化した得体の知れない生物が入っていく……。
ウッズマンはDJの頭を握りつぶし、ラジオ局を出ていった。

コメント
こんばんは。何を見せられているのだろう、を使うのが早かったです。というのが第8章を観た感想です。少し観て、止めて、観て、止めてを繰り返しました。あれを文章で表現できるのは凄いです。さすがプロ。これから第9章を観ます。
コメントありがとうございます。
何度も見直さないと分からないようなドラマを、またリンチさんがつくってくれますように・・・。
引き続きお楽しみください。