ツイン・ピークス
スマホで位置を確認しながら闇のなかを走った”ミスターC”は、なだらかな丘が連なる場所でピックアップトラックを停め、ルーフの4連ライトで目的の場所を照らした。
目的を訊くリチャード・ホーンに”ミスターC”は答える。
「俺はある場所を探していて、3人からその場所の座標を聞いた。2つは一致している。おまえならどうする?」
「俺なら一致した場所を探す」
「お前は頭がいいな。一致した場所はすぐそこだ」
”ミスターC”の視線の先には大きな岩があった。丘の上に誰かが置いたようにたたずんでいる。
2人は、この様子を別の丘の上から見ている者がいることに気づいていない。
「人か?」
息を切らして走ってきたのは山中をさまよい歩いていたジェリー・ホーンだ。ジェリーはバッグから双眼鏡を取り出し、逆さまにのぞき込んだ。
”ミスターC”は俺は25歳年上だと強調してからリチャードにスマホを持たせ、ブザーが大きく鳴る場所に立てと命じた。大きな岩の上がその場所だろうと”ミスターC”は言った。
リチャードはゆっくりと丘の上を進み、岩の上に立った。ブザーが大きく鳴り響く。
「よし、ここだ!」
言った瞬間、リチャードの身体に光が走った。まるで電流を浴びて感電しているようだ。リチャードは全身から煙と光を発しながら岩の上にとどまり続け、やがて消えた。
離れた場所から見ていた”ミスターC”は顔色ひとつ変えずに呟く。
「じゃあな、息子よ」
車に戻った”ミスターC”はスマホでメッセージを打ち込む。時刻は午前2時5分。
「:-)ALL.」(笑すべて)
しかし、なぜか送信できなかった。
ネヴァダ
FBIラスヴェガス支部の特別捜査官ランダル・ヘッドリーと部下のウィルソンは、ランスロットコートのダグラス・ジョーンズの自宅を訪ねる。しかし留守だったため、張り込み場所へ車を移動させた。
修理工に変装してその様子をワンボックスカーから見ていたシャンタルとハッチは邪魔者が消えたと安堵する。
自宅で感電したクーパーは昏睡状態のまま病院のベッドに横たわっている。付き添うジェイニー・Eとサニー・ジムを、ブッシュネル・マリンズが励ます。そこへアシスタントを引き連れてミッチャム兄弟がお見舞いに来る。フィンガーサンドを差し入れたミッチャム兄弟は自宅へ食事を用意しておきたいと申し出て、ジェイニー・Eから鍵を預かる。
FBIのウイルソンは車をセダンからフォードエクスプローラーに乗り換えてダギーの自宅付近へ。少し離れた場所にあるワンボックスカーと向き合う形で車を停め、張り込みを開始した。
惨劇は、ダギーの自宅にリムジンが到着し、2人の男とピンクのドレスを着た若い女が3人、いそいそと家に入っていった直後に起きた。ダギーのはす向かいに家に住む男がシャンタルとハッチに車を移動させろと言ってきたのだ。
スナック菓子が切れて苛ついていたシャンタルは「消えな!」とぶち切れ、ハッチも同調。しかし男は引き下がらなかった。車に乗り込み、ワンボックスカーにぶつけてきたのだ。後輪のタイヤが煙を吐きながら唸る。
「くそっ、なめやがって!!」
シャンタルは運転席のコンソールから拳銃を取り出し、フロントガラスを撃ち抜いた。男はすぐさま車を降り、リアトランクから取り出したマシンガンでシャンタルを狙った。ショットガンで応戦するハッチ。しかし、こうなってはダギーの殺害どころではない。シャンタルはその場を離れようと車を発進させる。
しかし相手が悪かった。道に転がった男は素早く体勢を立て直し、走りながらマシンガンを連射。ハッチとシャンタルは蜂の巣のようになった車のなかで無数の銃弾を浴びて絶命した。
男は張り込んでいたFBIに確保された。
デイル・クーパーが意識を取り戻したのは、病院全体に共鳴するような不思議な音の出所を探るように、ブッシュネルが病室を出て行った直後だった。
「完全に目覚めた」
赤い部屋のマイクと対面し、ドッペルゲンガーが戻って来ていないと知ったクーパーは翡翠の指輪を受け取り、その場で抜いた髪の毛を渡して「タネをもうひとつ作ってくれ」と頼んだ。
そしてクーパーは「ワシントン州のスポケーンへ飛びたい」とミッチャム兄弟に頼み、ゴードン・コールへの伝言をブッシュネルに託してラスヴェガスへ向かう。
サウスダコタ
「:-)ALL.」(笑すべて)
16時32分、ホテルのカウンターでそのメッセージを確認したダイアン・エヴァンスは
「思い出した。ああ、クーパー。思い出したわ」と漏らしたあと、返信した。
「48551420117163956」
それはルース・ダヴェンポートの遺体の腕に記載されていた数字だった。
ダイアンはバッグのなかの拳銃を確認し、意を決して席を立つ。
ゴードン・コール、アルバート・ローゼンフィールド、タミー・プレストンが待つ部屋に入ったダイアンは、デイル・クーパーと最後に会った夜のことを話す。
「あれはクーパーからの音信が途絶えて3年か4年が経った頃のことよ。私はまだFBIで仕事をしていたわ。その夜、ノックもなくベルも鳴らさず、彼が入ってきた。私はリビングに立っていた。彼に会えて嬉しかった。思い切り抱きしめたわ。それから2人でソファに座り、話し始めたの。私はすべてを聞きたかった。彼がどこで何をしてきたのか。
でも、彼が知りたがっていたのはFBIのその後のことだけ。尋問されているような気がしたわ。でも私は言い聞かせていた。彼はFBIのことが気になるだけだと。そしたら彼の顔が近づいてきて――キスした。その瞬間、感じたの。何かがおかしいって。そして怖くなった。彼は笑って……私をレイプした。レイプしたのよ。その後、私は外に連れ出された。そこは古いガソリンスタンドだった――」
ダイアンは震え、涙を流しながら、バックのなかのスマホを確認する。
「:-)ALL.」(笑すべて)とメッセージが来ている。
ダイアンは何度も大きく息を吐いて言った。受信時間は15時50分。
「私は保安官事務所にいる……彼に座標を送ったの。保安官事務所にいる…だって、私じゃないから…!そうよ、私は私じゃない」
明らかに様子がおかしくなったダイアンを見て、タミーとアルバートは視線を逸らし、デスクの下へ手を伸ばす。
そしてダイアンがバッグのなかの拳銃をつかんで向けた瞬間、彼女の胸を撃ち抜いた。
ダイアンはその場から消失した。
タミーは信じられないという表情で言った。
「驚いたわ。あれが本物の化身(トゥルパ)……」
「保安官事務所だと?」
ゴードンは呟く。
赤い部屋
「誰かが作ったのだ、お前を」
赤い部屋でマイクはダイアンに言った。
「分かってるわよ、くそったれ」
ダイアンは消失し、金色の玉が残った。
ネヴァダ
「しばらく遠くへ行くことになった」
『シルバー・ムスタング・カジノ』に到着したクーパーは、ジェイニー・Eとサニー・ジムに伝える。そして「私は必ず戻ってくる。君たち2人を愛している」と言って抱きしめる。
「すぐに帰ってくる。赤いドアから入って、ずっとそばにいる」
「行かないで」
ジェイニー・Eは背中を向けたクーパーをつかまえ、強くキスしてから言った。
「あなたが誰でもいい。ありがとう」
クーパーはリムジンで空港へ向かう。
ミッチャム兄弟はクーパーが25年間行方不明だったFBI捜査官だという事実を素直に受け入れる。しかし、警察に歓迎されないからツイン・ピークスへは一緒に行けないと話す。クーパーが「それも変わる。君たち2人が黄金のハートを持っていることは私が保証する」と言うと。兄弟は嬉しそうに肩を組み「ほんとうにそうよ」とキャンディは笑った。
ツイン・ピークス
ロードハウスではエドワード・ルイス・セバーソンの演奏が始まる。
バーカウンターにはオードリー・ホーンとチャーリーの姿がある。
やがて、MCがオードリーを紹介し、人々はフロアの中央を空ける。
懐かしい曲に浸り、恍惚の表情でオードリーは踊る……。
しかし、その心地良い時間は長くは続かなかった。
「モニク!俺の女房に何しやがる!」
突然、男がフロアに怒鳴り込んできて乱闘を始めたのだ。
オードリーはチャーリーに駆け寄り、ここから連れ出してほしいと頼む。
次の瞬間、オードリーは鏡で素顔と対面していた。
「何?何なの?」
電気が流れる。演奏は続く……。
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