サウスダコタ
「私にはどうしても撃てなかった」
拳銃を握りながら呟くゴードン・コールを見て、アルバート・ローゼンフィールドは「齢を重ねて弱くなったんでしょう」となぐさめる。その後、ゴードンは「25年間隠してきたことがある」とタミー・プレストンとアルバートに打ち明ける。
「ブリッグス少佐は失踪する前、私とクーパーにある存在を発見したと言った。それはきわめて強力なネガティブな力で遠い昔には”ジャオデイ”と呼ばれていた。しかし長い時を経て、”ジュディ”となった。私と少佐、クーパーの3人は”ジュディ”へたどり着くための計画を練ったが、ブリッグス少佐が消え、クーパーも失踪した。フィリップ・ジェフリーズは、もうこの世には存在しない。少なくとも通常の意味では。
フィリップはかつて私に言った。『その存在に気づいた』と。その後、彼は姿を消した。さらに、クーパーの最後の言葉だ。『もし、他のみんなと同様に僕が消えたら、あらゆる手を尽くして見つけ出してほしい。僕は、一石で二羽の鳥を狙う』。で、今はクーパーが2人いる。しかも最近、暗号化されたメッセージが、レイ・モンローという情報屋から届いたのだ。そこには、刑務所にいたクーパーが、座標を探していると書いてあった。そして、その座標を知っているのはブリッグス少佐らしいのだ」
”ジュディ”とは何者か。『ツイン・ピークス ファイナル・ドキュメント』によると、つい先日、フィリップ・ジェフリーズが失踪前に滞在していたホテルの部屋の壁に『ジョウディ(JOUDY)』の文字が刻まれていたことが判明したという。ということは、”ジャオディ”から”ジョウディ”、そして”ジュディ”へと変化したということだろうか?
タミーの調査によると『ジョウディ(JOUDY)』は古代シュメール神話に登場する女型の悪霊の呼び名(男型はバアルと呼ばれる)で、冥界から逃れてこの地上を気ままにうろつき回っているという。人肉を食らうが、いちばんのご馳走は獲物から抜き取った魂で、とりわけ彼女らが好むのは人間の苦悩。そして女型と男型が地上で合体すると世界の終わりを呼び寄せる、と古代の文献に記載されているという。
『ツイン・ピークス ファイナル・ドキュメント』でタミーは結論を導き出してはいませんが、女型の悪霊。少女時代の体験。”ジュディ”を含む名前。そしてフィリップが”ミスターC”に言った「お前はもうジュディに会っている」。これらを考えると、ジュディはセーラ・ジュディス・ノヴァク・パーマーなのでは?第1章、ニューヨーク・シティに姿を見せたエクスペリメントの胸に乳房らしきものがあるのも気になりますが……。
アルバートとタミーはじっと次の言葉を待つ。
「この計画については君にも言えなかった。すまない、アルバート。君は分かってくれるだろうが、それでもすまないと言うしかない。だがこの計画が順当なのはどうかは私には分からない。我々が知るデイル・クーパーからはまだ連絡がないんだ」
そこまで言った時、コールのデスクの電話が鳴った。相手はFBIラスベガス支部の特別捜査官ランダル・ヘッドリーだった。ヘッドリーのからの報告は「ダグラス・ジョーンズを見つけたが姿がない」という要領の得ないものだったため「マルクス兄弟の映画かよ」とアルバートは呆れて目を閉じる。
しかし、電話に割って入った人物によって詳細が明らかになる。彼はラッキー7保険のブッシュネル・マリンズだと名乗った。ブッシュネルはダギーのメッセージがあると言い、ゴードンに伝える。
「私はトルーマン保安官のもとに向かう。今、ラスベガスは2時35分。その3つの数字を足すと完成の数字である10になる。以上だ」
ゴードンは丁寧に礼を言い、電話を切った。そしてタミーに聞いた。
「ダグラス・ジョーンズがクーパーなのか!?」
タミーはノートPCを叩いてデータベースにアクセス。すぐに答えを見つけ出した。
「ダギーは車を爆破され殺し屋に襲われたようです。その後、コンセントにフォークを突っ込んで感電し病院に運ばれています。今朝まで入院していたようですね」
「これは間違いなく青いバラ事件(ブルー・ローズ・ケース)だ。彼の後を追うぞ」
ツイン・ピークス
保安官事務所の地下留置場。10号室に収監されているチャド・ブロックフォードは、顔と口から血を流し人の言葉をオウム返しに繰り返す5号室の男が眠るのを待って脱獄を図るつもりでいるが、男はなかなか眠ってくれない。そのうちにベッドで横になっているナイドの声が大きくなる。男がそれをマネして叫ぶ。チャドは頭を抱えて横になる。
ベンジャミン・ホーンはホテルのオフィスでワイオミング州のジャクソンホール警察からの電話を受ける。弟のジェリーが全裸で保護されたらしい。ベンはすぐに迎えを出すと伝える。
”ミスターC”はダイアン・エヴァンスから受け取った座標が示す場所にたどり着く。そこはボビーたちが森の中空に発生した渦を目撃し、ナイドを保護した場所だった。長い年月を重ねてきた幹のなかに、白くて細いシカモアの木が一本だけあり、根元には石に囲まれた水鏡のようなものがある。”ミスターC”がそこに近づくと閃光が走り、中空に渦が現れた。
”ミスターC”は異空間へ飛んだ。そして鳥かごのような場所に入った。そこにはいびつな円柱状の物体があり、ガーランド・ブリッグス少佐の顔が宙に浮いてとどまっていて、中央にはモニターがあった。巨人が右手を動かすとモニターの映像が、座標の場所からローラ・パーマーの自宅、どこかの道へと変わった。そして”ミスターC”は不思議なパイプでそこに運ばれた。そこは、ツイン・ピークス保安官事務所の前だった。
駐車場で彼を見つけたのはアンディ・ブレナンだった。アンディはクーパーとの25年ぶりの再会を心から喜び、事務所のなかへ案内。受付の前で妻のルーシー、所長のシェリフ・”フランク”・トゥルーマンと引き合わせた。しかし、次の瞬間、アンディの脳裏をよぎったのは、ルーシーをフランクのオフィスに連れて行き、地下へ走る自分の姿だった。みんなで山へ入ったあの日、渦のなかに入り、消防士と名乗る巨人の前でイスに座って見た光景がフラッシュバックしたのだ。その後、アンディはフランクのオフィスで来訪者にコーヒーをすすめる。
「いや、いい」
来訪者は断った。
地下留置場では何かの危機を伝えようとしているのか、ナイドの声がいっそう大きくなる。しかし、5号室の男のオウム返しは聞こえてこない。とうとう眠ったのだ。チャドはそれを確かめ、靴底に仕込んでおいた鍵を取り出した。そして静かに独房から出ると拳銃保管庫へ向かった。
「一大事だ!!」
受付のルーシーにそう叫んだ後、ホークを探して地下留置場へ来たアンディは、拳銃を向けたチャドと通路で向き合った。自分のことを罵りながらチャドが近づいてくる。アンディの窮地を救ったのはフレディ・サイクスだった。フレディはチャドが目の前に来た瞬間、手袋を着けた右手で勢いよく扉を開け、チャドを倒したのだ。
来訪者をオフィスに招いたフランクは、彼にツイン・ピークスへ来た理由を尋ねる。彼がやり残したビジネスがあると答えた後、電話が鳴った。ルーシーが繋いだ相手はデイル・クーパーだった。「コーヒーあるか?」という明るい声を聞き、コーヒーを断った目の前の相手が偽物だと瞬時に理解したフランクと来訪者は同時に銃を抜き、発砲した。
次の瞬間、フロアに転がったのは来訪者だった。扉を開け放った入口に、拳銃を手にして来訪者を見下ろすルーシーの姿があった。フランクは「絶対に彼に触るな」というクーパーの声を受話器越しに聞いた。
アンディは気絶したチャドを手錠で拘束し、ナイド、ジェームズ、フレディを連れてオフィスへ上がった。銃声を聞きつけ、ホークもやってきた。そこで彼らが見たものは、クーパーと同じ顔をした来訪者を介抱するホームレスのような黒い男たちの姿だった。男たちは腹部の血を顔に塗りたくっている。
クーパーがオフィスに着いたのは、まさにその瞬間だった。ウッズマンたちが消えると、”ミスターC”の腹部が割れ、巨大な黒い塊が出てきて宙に浮いた。クーパーはその塊のなかにある顔をはっきりと見た。ボブだ。クーパーはジェームズの隣にいる青年に言った。
「君はフレディか?」
フレディは頷き「これは僕の運命だ」と答えてボブに立ち向かう。
ボブは強大な力でフレディを打ちのめす。しかしフレディは顔を鮮血で染めながら何度も立ち上がり、ゴム手袋を着けた拳を振るった。そして、ボブを打ち砕いた。
力を使い果たして膝をついたフレディを労ったクーパーは、マイクから受け取った翡翠の指輪を、自らのドッペルゲンガーの左手の薬指にはめた。ドッペルゲンガーは消失し、ブラックロッジへ戻った。それを見届けたクーパーは、フランクからグレート・ノーザン・ホテル315号室のキーを受け取る。そしてジェームズと並んでいるナイドの顔を見た。
<ここから画面いっぱいにクーパーの顔>
駆けつけたボビー・ブリッグスにクーパーは説明する。
「君の父親はこうなることを知っていた。君の父親はある情報をつかみ、ゴードン・コールとともに調査を行ったんだ」
そこへゴードン、アルバート、タミーが到着した。
「そこにいるゴードンと一緒に。そして今日、我々は集まった」
クーパーはオフィスにいる人々の顔を見て続ける。
「いくつかのことがこれから変わる。過去が未来を決めるのだ」
クーパーは「ハリーによろしく伝えてほしい」とフランクに頼み、ナイドと手を合わせた。
目を縫い付けられ、言葉を話せない女性が赤毛のダイアン・エヴァンスに変わるのをオフィスの全員が息を呑みながら目撃した。クーパーは彼女を抱きしめ、口づけをかわす。
<画面いっぱいのクーパーの顔が消える>
「クーパー。ただひとりの人」
「すべて憶えているのか」
顔を上げたダイアンの目はオフィスの時計を捉えた。
<再び画面いっぱいにクーパーの顔>
アナログ時計の針は2時53分を指していて、そこから進まなくなっている。
「我々は夢のなかに生きている」画面いっぱいのクーパーが籠もった声で呟く。
「また君たちに会いたい」
オフィスが停電し、クーパー、ダイアン、ゴードンはその場から消えた。
3人はグレート・ノーザン・ホテルにいた。
<画面いっぱいのクーパーの顔が消える>
クーパーは現在はボイラー室になっている旧315号室の鍵を開け、ここから先は私一人で行くと言い、二人に別れを告げた。「カーテンコールでまた会おう」迎えにきたのはマイクだった。
「来たるべき過去の闇を通して、魔術師は見たいと望む。一人の者が2つの世界の間で唱える。”火よ 我と共に歩め”」
クーパーとマイクは並んで長い通路を歩く。その先に階段が見える。階段を上りきるとジャンピング・マンが降りてきた。二人は”ダッチマン”でフィリップ・ジェフリーズに会う。もはや人ではないフィリップは言う。
「頼む、正確に言ってくれ」
「1989年2月23日だ」
「君のために見つけよう……ここは滑りやすい。また会えてうれしいよ、クーパー。ゴードンに会ったらよろしく言ってくれ。正式ではない方を、憶えていてくれるだろう。ここで、君はジュディを見つけるはずだ。おそらく、誰かがいる。君はこれを私に頼んだか?」
蒸気のなかから、フクロウを意味する絵文字が現れ、やがれそれは”8”になった。
「よし、いいぞ。君はもう行ける。クーパー。忘れるな」
「電気だ。それは電気……!」
マイクが言った。
1989年2月23日
クーパーは時空を超え、1989年2月23日へ。ボブが憑依したリーランド・パーマーに、その娘ローラ・パーマーが殺害された日だ。
クーパーは、ジェームズと別れたローラが、ジャック・ルノー、レオ・ジョンソン、ロネット・ポランスキーと落ち合う前に接触。その姿を見てローラは言った。
「夢であなたに会っている。夢のなかで……」
ローラを救って未来を決めるため、クーパーは手を伸ばし、ローラはその手をしっかりとつかんだ。
「どこへいくの?」
「家へ帰ろう」
朝。真っ赤なルージュをひいたジョシー・パッカードがいる。ピート・マーテルはいつものようにキャサリンに声をかけ、ブラック・レイクへ釣りに出かける。湖畔に異常はない。ローラは殺されなかったのだ。
ツイン・ピークス
セーラ・パーマーの自宅。うめき声が聞こえる。部屋に戻ってきたセーラは、ローラの写真を床に置き、悪魔のような咆哮を上げながら割れたウイスキーボトルを何度も振り下ろした。
1989年2月23日
クーパーはローラの手を引いて森の中を歩いていたが、金属がこすれるような音を聞いたと同時にローラが消えた。森にローラの絶叫が響き渡る。
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