河間平野(リーチ)
「俺たちに勝ち目はない」
河底に沈むところをブロンに救助されて九死に一生を得たジェイミー・ラニスターは、つい先ほどまで目の前で起きていた出来事――ドラゴンの炎で兵隊たちが炭と化していく光景を思い出して悟った。
ドラゴンに文字通り一矢を報いたブロンも同感だった。ブロンは王都が焼き払われる前に逃げると明言し、この惨状をサーセイに伝えなければならないジェイミーの心中を察して言った。
「あんたは溺れ死んだ方がよかったかもな」
奇襲を成功させて河間平野(リーチ)を奪還したデナーリス・ターガリエンは、生き残った敵兵をドロゴンの前に集め「わたしはサーセイとは違う。サーセイだけが恩恵を受ける世界を壊すために戦っている」と話す。そして、ひざまずいて忠誠を誓うか、ここで死ぬか。どちらかを選択せよと命じた。
「前に出なさい」
デナーリスの声に応じ、膝をついて頭を垂れている若い兵たちの間を縫って歩を進めたのは、ドロゴンの咆哮を聞いても微動だにしなかったランディル・ターリーだった。
ランディルは「野蛮人を連れて異国からやってきたおまえは女王ではない」と侮蔑を込めて言い放ち、冥夜の守人(ナイツ・ウオッチ)として生きることも拒否。その父の姿を見て息子のディコンもともに死ぬことを決意し、デナーリスの前に歩み出た。
ティリオンは名家の血をここで絶やすことはない(実際には長男のサムウェル・ターリーがいますが)と説得。デナーリスに対しても地下牢に入れておけば冷静になって気が変わると訴え、処刑を思いとどまるように懇願した。
しかしデナーリスは「それを許せば、他の者も牢で生きることを選ぶ」という理由でこれを棄却。服従か死か。ふたつにひとつだと断じた。そしてデナーリスはターリー父子をその場で死刑に処した。
「ドラカリス」
キングズ・ランディング
王都に帰還したジェイミーは、河間平野(リーチ)の惨状を聞いていながら「タイレルから奪った資金で傭兵を雇えばまだ戦える」と楽観するサーセイに報告した。
「ドスラク人の戦い方をこの目で見た。どれほど屈強な傭兵を雇っても、人殺しを楽しんでいる奴らには太刀打ちできない。それにドラゴンがいる。クァイバーンのスコーピオンでも止められなかった。俺たちに勝ち目はない」
かといって和平の道はない。今、サーセイがいるのは、デナーリスの父エイリスから奪った玉座。圧倒的優位に立ったデナーリスが承知するはずがない。それを分かっていながら「ティリオンにでも仲介を頼む?」と思わず自嘲したサーセイに、ジェイミーは続ける。
「ジョフリーを毒殺したのはティリオンじゃない。オレナだ。死の間際に白状した。これは事実だ」
ならばもっと苦しませて殺すべきだったと吐き捨てるサーセイ。ジェイミーはタイレル家はもう滅んだと言い、この戦争を終結させなければ俺たちも同じ目に遭うと説得する。
しかしサーセイは彼の目を直視して言った。
「服従して死ぬか、戦って死ぬか。どちらかしかないのなら答えは決まっている」
ウィンターフェル城
鴉に潜って”壁”の北へ飛んだブラン・スタークは”壁”に向かって進軍する死の軍団を確認。夜の王(ナイトキング)に気づかれて戻ったブランは、脅威が間近に迫っていることをドラゴンストーンにいるジョンに知らせる。
「北の王は北部に留まるべきだ。我々はあなたを王に選ぶ」
「谷間(ヴェイル)の騎士たちはあなたのために来たのですよ、レディ・スターク」
クラヴァー公とロイス公がサンサに訴えるのを見ていたアリアは、姉サンサの胸には「北部諸侯は誇り高くて難しいわ」という言葉とは裏腹の感情が沸き上がっていると想像していた。いや、見抜いていたと言った方がいいかもしれない。
(気分がいいでしょうね、姉さん。レディ・スタークと呼ばれるのは)
だから父と母の居室に足を踏み入れた瞬間、幼い頃から抱き続けてきた姉に対する想いが、漏れ出てしまうのも仕方のないことだった。
「父上と母上の部屋」
「それが?」
「……べつに」
「嫌な子。隠さずに言えば」
アリアは笑みを浮かべ、イスに掛けられた毛皮を撫でる。
「昔から高価なものが好きだったものね。自分が特別に思えるから」
「怒っているの?」
「みんなジョンを侮辱していた。なのに咎めないなんて」
「諸侯の不平不満をくみとることも城主の仕事よ」
「彼らの意見が大事なの」
「グラヴァーの兵は500。ロイスの兵は2000よ。機嫌を損ねたらジョンは軍を失うわ」
「なら先に首をおとすべきね」
サンサはため息をつく。
「それでは諸侯たちをまとめることはできないわ」
「もし、ジョンが帰って来なかったら、彼らと団結するんでしょ?欲しいものが手に入るから」
「……よく、そんな酷いことを考えられるわね」
「自分だって、そう考えているくせに。姉さんはそれを、振り払えない」
「……わたしは忙しいの」
「そう。では失礼します。レディ・スターク」
サンサとの関係に疑念を抱いてベイリッシュをマークしているアリアは、ベイリッシュがメイスター・ウォルカンから書状を受け取るところを目撃。どうやらサンサのためにウォルカンに捜させたらしい。
アリアはベイリッシュの部屋に忍び込み、ベッドからその書状を発見。それはかつてサンサがロブに宛てたもので、ジョフリー王に降伏してほしいと記述されていた。
サンサの心中を察したアリアはさらに警戒心を強めるが、その動きはベイリッシュに察知されていた……。
ドラゴンストーン城
目的を果たして帰還したデナーリスは、驚くべきシーンに直面する。3頭のなかで最も凶暴な性格のドロゴンが、出迎えたジョン・スノウに興味を持ち、甘える仕草を見せたのだ。
(特別な人なのかもしれない)
デナーリスは今までとは違った感情がわき上がってくるのを感じる。
嬉しい驚きはもうひとつあった。灰鱗病(グレイスケール)に冒されてミーリーンで別れたジョラー・モーモントが上陸してきたのだ。デナーリスは強風が吹き抜ける岬でひざまずいたジョラーをジョンに紹介し、再び相談役として迎えた。
河間平野(リーチ)の戦いの後、すべての提案をデナーリスに却下されながら、ティリオンはジョン宛ての書面を預かっているヴァリスを相手に「女王が正しい」と言って酒を呷る。ヴァリスも狂王(マッドキング)に仕えていた時代の自分を思い出して共感。珍しく酒を飲んでため息をつく……。
ブランの書状を読んだジョンは「このままウィンターフェルに戻り、現状の戦力で死の軍団と戦う」と伝えた。加勢してほしいのは当然だが、サーセイと戦をしているデナーリスが今、ここを離れられるはずがないと分かっているからだ。
「いい手があります」
この状況を打破する名案を思いついたのはティリオンだった。彼は言った。
「死者をつかまえて王都まで連れて行き、死の軍団などおとぎ話程度にしか考えていないサーセイに証明してみせるのだ。ホワイト・ウォーカーと亡者(ワイト)は実在すると――」
そして、自らキングズ・ランディングへ潜入し、サーセイが信頼するただ一人の男――ジェイミーと交渉すると。
キングズ・ランディングへの潜入役はダヴォスが、亡者(ワイト)の捕獲役はジョラー・モーモントが自らすすんで請け負った。それを受けて、ジョンは表明した。
「”壁”の北へ―――俺も自由の民を連れて行く」
「もう冥夜の守人(ナイツ・ウオッチ)ではなく、北の王なのだぞ」
ダヴォスが思いとどまるよう頼み、デナーリスがウィンターフェル城への帰還を許可した憶えはないと申し伝える。しかし、ジョンの腹はもう決まっていた。
「悪いが、陛下。あなたの許しは必要ない。俺は王だ。ここにくる時、ドラゴンに焼かれることも覚悟していた。でもあなたを信じた。見知らぬあなたを。それが俺たちの民を救う唯一の方法だったからだ。だからあなたも、俺のことを信じてほしい」
デナーリスはティリオンを横目で見てから、黙って頷いた。
キングズ・ランディング
ティリオンはダヴォスとともに海岸から赤の王城(レッド・キープ)へ侵入。かつての相棒・ブロンの手引きでやってきたジェイミーと極秘会談を行い、「この戦争はデナーリスの勝ちだ」と前置きした上で、ジョン・スノウが死の軍団が存在する証拠を持ち帰った後の休戦を申し出る。
一方のダヴォスは旅籠や娼館を捜して回ったあとで立ち寄った鍛冶屋通りで、今回の潜入の目的だったジェンドリーとの再会を果たす。ダヴォスは腕のいい鍛冶職人である彼を、北部へ連れていきたいと考えていたのだ。「脅威が迫っている」。ラニスターの武器を作ることに嫌気がさしていたジェンドリーは、その言葉だけで十分だと言い、戦槌を手にして船に乗り込んだ。
ティリオンと会い、休戦の条件について協議したことを伝えにきたジェイミーに、サーセイはブロンの動きを察知しながら黙認したと打ち明ける。「あの女に勝つには賢くならなければ……父上のように。敵が何であれ、必ず倒すわ。我が一族のため。そして…この子のためにね」
予期していなかった喜びに胸を詰まらせるジェイミーの耳元で、サーセイはささやく。
「2度と裏切らないで」
ドラゴンストーン城
ジョンはダヴォスが連れ帰ったジェンドリーと対面した。ロバート・バラシオンの落とし子は、エダード・スタークの落とし子に遠慮なくものを言い、”壁”の向こうへ行くメンバーに加えてほしいと頼んだ。
「身は守れます」ダヴォスの助言を受けてジョンが了解すると、ジェンドリーはダヴォスに言った。
「あんたには命を助けられた。2度もだ。でも、あんた言った者が”壁”の向こうにいるのならじっとしてはいられない」
そう言われてはダヴォスも勝手にしろと嘆息するしかない。
「信じられないだろうが、会いたかったぞ。そのしかめっ面には誰も勝てん。グレイ・ワームでもな」
乗船準備を行うジョラーにティリオンは言い、二人して奴隷商人に買われた時に親方からもらった金貨をお守りとして渡した。
「帰ってこいよ。女王のために」
ジョラーは黙って頷き、見送りに来たデナーリスの手にキスをして、小舟に乗り込んだ。
「俺がこのまま戻らなければ、北の王に煩わされることもない。来たる戦での幸運を祈っています」
ジョンはデナーリスにそう告げてジョラーに続いた。
その背中を見送るデナーリスの瞳に特別な感情が宿っていることに、ティリオンは気づいていた。
オールドタウン・知識の城(シタデル)
ブランの書状を受け取った学匠たちは北の脅威について議論するが、懐疑的な意見が大勢を占める。それを見かねたサムウェル・ターリーは死の軍団と戦った当事者として証言するが、危機感に乏しい学匠たちの気持ちを動かすことはできず、大学匠(アーチメイスター)エブローズがメイスター・ウォルカンに確認を依頼するという結論が出された。
自室でジリの問いに答えながら、サムはエブローズに命じられた書写を続ける。ジリはメイナードという名の総司祭(ハイ・セプトン)が残した書物の一文に目を止め『レイガー・ターガリエン(デナーリスの兄)が結婚を無効にしてもらい、別の女性とドーンで密かに結婚した』と読み上げるが、二人はその重要性――ジョン・スノウの出生に関わる記述だとは知る由もなかった……。
やがてサムは書写の手を止めた。人の偉業を書き写すだけの毎日にはもう耐えられなかった。そして死の軍団を倒すためのヒントが記述されていそうな古文書を手当たり次第に書庫から抜き取り、ジリと子どもを連れて知識の城(シタデル)を去った。
東の物見城(イーストウォッチ)
「また”壁”を越えるって、本気か?」
堅牢な家(ハード・ホーム)に最も近い東の物見城(イーストウォッチ)の守備にあたっていたトアマンドは、遠征メンバーにでかい女(ブライエニー・タース)がいないことに落胆しつつ、半ば呆れてジョンに訊いた。そしてジョンが静かに頷くと「なら、あいつらも連れていくか。拙攻隊が”壁”の南でみつけたらしい」と言って牢獄に案内した。
そこには、サンダー・クレゲイン、ベリック・ドンダリオン、ソロスがいた。
「”壁”の向こうへ行くのは使命だ」と主張するベリックとソロスは、ジェンドリーにとっては「旗印なき兄弟団(ブラザーフッド)に入れ」と言っておきながら金ほしさに紅の女に売った人でなし。ジョラーは、トアマンドの仲間を何人も斬ってきたジオー・モーモントの息子。
因縁を上げればきりがなかったが、男たちは共通の敵と戦うことに合意。”壁”の北側に向かった。
地図と登場人物
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