”壁”の向こう
「こいつは6回死んだが泣き言はいわんぞ」
紅の女(メリサンドル)に売られてドラゴンストーンで殺されそうになった恨みを忘れないジェンドリーだったが、ベリック・ドンダリオンを評したサンダー・クレゲインの言葉に沈黙。ソロスの差し出した酒を飲んで過去を水に流す。
ジョン・スノウはジョラー・モーモントに彼の父ジオー・モーモントとその最期について語り、ジオーから譲り受けた長剣”ロングクロウ”を返そうとする。しかしジョラーは自分には持つ資格がないと言い、ジョンが持ち、子どもたちに受け継いでほしいと話す。
トアマンドは「あっちへ行け」と煙たがるサンダーに構わず、ウィンターフェルで美女が待っていると話す。髪の色と体格を聞き、その”美女”がブライエニー・タースだと察したサンダーは「あの目つきは惚れている。子どもをつくりたい」と脳天気に話すトアマンドに言った。
「おまえ、よく今まで生きてこられたな」
「『光の王』(ロード・オブ・ライト)はおまえを生かしたいのだ」
ジョンが蘇ったことを知っているベリックはそう言い、生かされている理由は分からないが、死という敵に立ち向かうために生きているのだと論じる。
やがて男たちはサンダーが炎のなかで見たという鏃(やじり)型の山の前に立つ。「敵は近い」。ジョンは気持ちを引き締めた。
猛吹雪に視界を遮られるなか、彼らの前に現れた最初の敵は、亡者(ワイト)となった巨大な熊だった。熊は斥候の野人を一撃で亡き者にし、互いに背を向けて円陣を敷いたジョンたちに襲いかかった。
ベリックの炎剣で火だるまになりながら熊は攻撃を止めず、炎を見て立ち尽くすサンダーに牙を剥く。間一髪のタイミングでソロスが炎剣を振るってサンダーを救い、ジョラーがトドメを刺したが、ソロスは胸を噛まれて深手を負った。
鏃(やじり)型の山の麓に来ると、トアマンドが”壁”に向かって歩く死の軍団のグループを確認。焚き火でおびき寄せて一気に襲いかかった。ジョンがヴァリリア鋼のロングクロウでホワイト・ウォーカーを粉砕すると亡者(ワイト)も続々と砕け散ったが、どういうわけか一体だけは残った。トアマンドがその亡者(ワイト)を拳で殴り倒すと全員で動きを押さえ、縛りつけた。これで作戦は成功したかに見えた。
しかし、亡者(ワイト)の叫び声を聞いた死の軍団が集まってきた。囲まれるのも時間の問題だと察したジョンは、東の物見城(イーストウォッチ)へ戻り、デナーリスへ使い鴉を飛ばせとジェンドリーに命じた。ジェンドリーは戦槌をトアマンドに預け、雪原を南に向かって駆け出した。
ジョンたちも急いでその場を離れるが、凍った湖の中央にある小島に追い込まれ包囲される。しかし湖面の氷は薄く、亡者(ワイト)たちも容易に近づけないため膠着状態に。極寒に耐えて朝を迎えた時、深手を負っていたソロスが息絶えていた。亡者(ワイト)にならないようにベリックが死体を焼いた。
ウィンターフェル城
アリアはサンサに、初めて弓矢が的をとらえた時、父エダードが拍手をしてくれた、という幼い頃の思い出を話す。そして「父上は姉さんのせいで死んだ」と責め、ピーター・ベイリッシュの部屋から盗みだした書状を読み上げた。
それはキングズ・ランディングにいたサンサが兄ロブ・スタークに宛てたもので、父はわたしが愛するジョフリーから鉄の玉座を奪おうとした。王都へ来てジョフリーに忠誠を誓ってほしい、と記述されていた。
アリアは「脅されて仕方なく書いた。わたしは子どもだった」と弁明するサンサに「わたしなら死を選んだ」と言い、エダードが処刑された時のことについても言及した。
「ジョフリーたちといたね。すてきな服を着て、髪もきれいにしてた。わたしはベイラー像のそばで見ていた。助けられなかったけど、わたしは家族を裏切ってはいない。ジョフリーなんかのために!」
サンサの瞳に怒気が見えたが、アリアは引くつもりはなかった。この城を取り戻したわたしにひざまずいて感謝しなさいと言い、反目すればサーセイの思うつぼだと諭すサンサの心中は手に取るようにわかった。
「この書状の存在を北部諸侯に知られるのが怖いんでしょ?サーセイに従っていたと判れば反発は必至。当時の姉さんよりも幼いリアナ・モーモントは何というかしらね」
アリアは「怒りは判断を鈍らせる」と忠告した姉に「恐れよりはマシよ」と吐き捨て、背を向けた。
アリアが手に入れた書状の内容を北部諸侯たちが知れば、故郷に帰る者が出てくるかもしれないと危惧するサンサは、ベイリッシュに相談する。ベイリッシュは「あなたが城主であり、民を見事に統治している。ジョンよりもあなたを推す者も少なくありません」と持ち上げる。そして二人を守ると誓ったブライエニーに仲裁を頼んではどうかと進言する。
そんな時、キングズランディングからウィンターフェル城主・サンサへ招待状が届く。サンサは、サーセイが女王の間は行きたくないという理由でブライエニーに代理を命じる。ベイリッシュを警戒するブライエニーは、サンサを一人にすることに不安を覚え、剣の腕を上げているポドリック・ペインを見張りにつけると提案するが、サンサはそれを却下。すぐに発てと命じた。
アリアの部屋に忍び込み、鞄の中に入った多くの人面皮を見つけたサンサは得体の知れない恐怖を感じる。そこにアリアが現れたため、その顔の皮について問いただす。“顔のない男たち(フェイスレス・メン)”の修業によって得たものだとアリアは答える。そして「顔の皮を剥げば姉さんになることもできるのよ。どんな気分だろうね。すてきなドレスを着て、城主になれば」と脅し、ブランから受け取った短剣を渡して部屋を出ていった。
ドラゴンストーン城
ティリオン・ラニスターは「サーセイは罠を用意しているに違いなく、軍とドラゴン3頭で乗り込んでも難しい交渉になる」と前置きして、デナーリスに懇願する。衝動を抑え、敵を知るために敵の立場で物事を考えてほしいと。そして陛下と陛下の理想を信じているからこそ後継者を作る必要があると話す。
しかし、デナーリスは河間平野(リーチ)でターリー父子を焼き殺したのは衝動ではなく、そうする必要があったからだと反論。そして女王の死後のことなど考えているからドーンとハイガーデンを失ったのだと断じ、後継者のことは載冠後に考えると言い残して部屋を出ていった。
東の物見城(イーストウォッチ)から届いた使い鴉によってジョン・スノウらが窮地に陥っていることを知ったデナーリスは、3頭のドラゴンを連れて救援に向かうことを決意。ティリオンは「あなたが死ねば何もかもが終わる。何もしてはいけない」と懇願し、”王の手”として、そして一人の男として引き留めるが、デナーリスはドロゴンの背に乗り、北へ向かって飛び立った。
”壁”の向こう
一昼夜続いた膠着状態は、サンダーが亡者(ワイト)に投げた石によって破られた。大きな石が湖面を滑るのを見た亡者(ワイト)が、氷が厚くなったと判断して向かってきたのだ。
ジョンたちは覚悟を決め、黒い波と化して小島に押し寄せてくる亡者を迎え撃つ。しかし、いくら斬ってもキリがない。
「退却だ!」ジョンは叫び、生け捕りにした亡者(ワイト)を引きずって後退するが、逃げ場はもう、どこにもなかった。絶望が足元から這い上がってくる。
(ここまでか――)
空から炎が降ってきたのはその時だった。
ドロゴン。ヴィセーリオン。レイガル。3頭のドラゴンは母デナーリスの指示を忠実に守り、ジョンたちを目がけて殺到する亡者(ワイト)を焼き払い、湖面を覆う厚い氷を瞬時に水に変えて生者以外のすべてを湖の底に沈めていく。
そしてドロゴンを小島に着陸させたデナーリスは、手を伸ばして男たちをその背に導いていく。サーセイに引き渡す亡者(ワイト)はサンダーが担いで運ぶ。ジョンは全員をドロゴンに乗せるため、小島に上陸して向かってくる亡者(ワイト)を斬り倒し続ける。
悲劇は、ジョンを除く全員がドロゴンに乗った直後に訪れた。夜の王(ナイトキング)の放った氷の矢が湖上を飛ぶヴィセーリオンの胸を貫いたのだ。ヴィセーリオンは断末魔の叫びを上げ、赤い血を雨のように降らしながら落下。氷にたたきつけられた後、湖の底に沈んでいった。
息子を喪い、ドロゴンの背で凍りつくデナーリス。言葉をなくす男たち。しかし、感傷に浸っている場合ではなかった。夜の王(ナイトキング)が2本目の矢を手にしたのだ。
「行け!早く!!」
デナーリスに向けて叫んだジョンは、亡者(ワイト)たちともつれ合うように湖に落ちた。右手で矢を構えて近づいてくる夜の王(ナイトキング)の姿を確認したデナーリスは、ジョンを残して飛び立った。夜の王(ナイトキング)の矢は、デナーリスの頭をかすめて湖に落下した。
戦いはまだ終わらない。亡者(ワイト)を始末して湖面に浮上し、ロングクロウを掴んで歩き出したジョンに、引き上げようとしていた死の軍団が気づいたのだ。寒さに凍えながら、最後の力を振り絞って剣を構えるジョンに殺到する亡者(ワイト)たち。
その進撃を止めたのは、落とし子のジョンが最も慕っていた男。ジョンを黒の城(カースル・ブラック)へ導いた男――ベンジェン・スタークだった。ベンジェンは火炎ハンマーを馬上で振るって亡者(ワイト)を蹴散らすと、間隙を縫って馬を下り、ジョンを乗せた。
「一緒に……」
声にならない声で願うジョン。
しかしベンジェンは、その手で愛馬の尻を叩いて叫んだ。
「行け!」
馬の首にしがみつきながら遠ざかって行くジョンの姿を見送ったベンジェンは、火炎ハンマーを回して亡者(ワイト)に立ち向かう。
2頭のドラゴンと人間たちを逃がしてしまったが、夜の王(ナイトキング)と死の軍団には大きな仕事が残っていた。
亡者(ワイト)たちが一斉に鎖を引くと、湖面にヴィセーリオンの死体が浮き上がってきた。夜の王(ナイトキング)は膝を着き、その額にそっと手を添える。
すると――ヴィセーリオンが目を開けた。
その瞳に青い光を宿らせて。
東の物見城(イーストウォッチ)
生還したサンダーは、生け捕りにした亡者(ワイト)を小舟に放り込み、ベリックとトアマンドに送られて東の物見城(イーストウォッチ)を発つ。
デナーリスは東の物見城(イーストウォッチ)の頂上で”壁”の北側を見ながら長い時間を過ごしたが、ジョラーに促されて背を向ける。角笛の音が轟いたのはその瞬間だった。ジョンが生きて戻って来たのだ。
凍死寸前だったジョンは船に運ばれて手当を受ける。意識を失ってベッドに横たわるジョンの身体に刻まれた無数の傷を見て、デナーリスは息を呑む。
ドラゴンストーンへ向かう船のなかで意識を取り戻したジョンは、ベッドサイドにいたデナーリスにヴィセーリオンを死なせてしまったことを詫び、”壁”の向こうへ行くべきではなかったと後悔する。
しかしデナーリスは涙をこらえて言った。
「行ったから、見ることができた。見て初めて判った」
そして、ドラゴンは自分が持つことができる唯一の子だと告白した上でジョンに宣言した。
「夜の王(ナイトキング)と死の軍団を倒す。ともに戦うと約束するわ」
それを聞いたジョンはデナーリスに忠誠を誓う。
北部の民はデナーリスを理解してくれる。
ジョンはそう確信したのだ。
『第6話 ”壁”の向こう』地図と登場人物
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