ウィンターフェル
その朝、野営地に吹き込んでいた雪が止んだ。スタニスは得意げに未来を語るメリサンドルを相手にせず出撃の準備を命じるが、目の前にあったのは希望ではなく絶望だった。半数の兵が脱走し、傭兵と馬も残らず消えていたのだ。勝つためとはいえ、自分の娘を磔にして火あぶりにする王に命を預けようとは思わない。厳しい寒さに耐えて行軍を続けてきた兵や金で雇われた傭兵が任務を放棄して逃げ出すのも無理はなかった。
スタニスが直面した現実はこれだけではなかった。火あぶりにされる娘を助けなかった自分を許せなかったのだろう。妻のセリースが森で首を吊っていた。スタニスは下ろしてやれと部下に命じ、ウィンターフェルへの進撃を始める。メリサンドルは出撃を待たずに姿を消していた。
スタニス軍との戦いの時が迫るなか、サンサは隠し持っていたコルクスクリューで扉の鍵を壊した。ラムジーが出撃しているこのチャンスを逃せば、監禁と暴力から逃れる機会はもう永久に訪れないかもしれない。サンサはロウソクを手に、決死の覚悟で壊れた塔に向かう。
ブライエニー・タースは今日も町の高台から壊れた塔の窓を見ていたが、従士のポドリック・ペインがスタニス軍の襲来を伝えたため、やむなくその場を離れる。ブライエニーにとってスタニスは、かつての主君・レンリー・バラシオンを黒魔術を使って殺害した仇。来たと知ったからにはここでじっとしているわけにはいかなかった。窓辺にサンサの合図が――ロウソクの火が灯ったのはその直後だった。
ウインターフェル城を前にスタニスは包囲戦の準備を命じるが、ボルトン軍は、3,000まで兵を減らし、ここまでの行軍で疲れ果てている敵に休む暇を与えない。スタニスは覚悟を決めて剣を抜いた。しかし、スタニス軍はあっという間にボルトンの騎馬隊に飲み込まれ、夜を待たずに全滅した。
深手を負い、森の中で動けなくなっていたスタニスを獲ったのは、ブライエニー・タースだった。
ブライエニーはスタニスの弟レンリーの”王の楯(キングズ・カード)”だったことと、スタニスの影(シャドウ)がレンリーの命を奪った時にその場にいたことを話し、黒魔術を使ったことを認めたスタニスを斬首した。
「役目を果たせ」
それがスタニス・バラシオンの最期の言葉だった。
ラムジーが慈悲のかけらもない狩りを終えた頃、サンサは監禁されていた居室へ急いでいた。しかし、弓を構えたミランダに行く手を阻まれる。サンサは覚悟を決めるが、ラムジーとの関係に執着するミランダは「彼に必要なのは北部総督の娘。跡継ぎを産むために必要なところは残してあげる」と言い、生かしたままサンサを傷つけようとする。しかしミランダは、サンサを守ろうとしたリーク――シオンに突き飛ばされて3階から落下。身体と頭を地面に打ちつけられて絶命した。
そこへラムジーが戻ってきた。
(捕まったら今度こそ殺される。迷っている時間はない)
シオンはサンサの手を引いて最上階まで登り、雪の深い場所を選んで一緒に飛び降りた。
ブレーヴォス
アリアはジャクエンに無断で顔を変えて高級娼館に潜入。少女を買って痛めつけるのが趣味のマーリン・トラントに近づき、ナイフを目に突き刺して、馬乗りになって胸をめった刺しにした。
「殺しのリストの一番目。師匠シリオ・フォレルの敵。覚えていないか?」
アリアは自らの名を名乗り、さらに腹部、背中にナイフを突き刺し、最後に喉を裂いた。
復讐を遂げて黒と白の館へ戻ったアリアは、少女の顔を柱に戻すが、そこにはジェクエンと娘がいた。ジェクエンは誤った命を奪ったと言い、娘は「早すぎたといった私が正しかった」と笑った。
「娘(アリア)は数多の顔の神からあの男の命を奪った。償いが必要だ。命の代償は命のみ」
ジェクエン(の顔をした男)は小瓶の毒をその場で飲み干し、絶命した。
泣いてすがるアリアの背後から声がした。
「誰でもない」
振り向くと、そこにはジェクエンが立っていた。
「じゃあ、これは誰?」
「誰でもない。娘もそうあるべきだった」
横たわっている者の顔を剥いでいくアリア。これが罰なのか――彼女の目は、視力を失った。
ウォーター・ガーデンズ
王都に戻るジェイミーたちを見送るため、ドーランとエラリア、オベリンの3人の娘たちは桟橋に集まっていた。エラリアは脅迫の対象だったミアセラに詫び「あなたの幸せを祈ってる」と言って彼女の頬を包み、長いくちづけをした。先日、ドーランの前でひざまずき忠誠を誓ったばかりだったこともあり、エラリアのその行為を疑うものはいなかった。
ジェイミーたちはドーランが用意した帆船に乗り込み、ドーンに別れを告げた。船室でジェイミーは王都に戻る決断をしたミアセラに改めて感謝するが、ミアセラの身に異変が起きる。鼻から大量に出血し、意識を失って倒れ込んだのだ。
桟橋に残って遠ざかっていく船を見ながら、エラリアはタイエニーが差し出したチーフで鼻血を拭いた。効くまでに時間がかかるアッシャイの特殊な毒薬”長い別れ”によるものだ。エラリアはミアセラにくちづけをした時、この毒物を口に含んでいたのだ。エラリアは首飾りを外して解毒剤を飲んだ。
ミーリーン
話し合いの結果、ダーリオ・ナハリスとジョラー・モーモントが、ドロゴンに乗って飛び去ったまま戻らないデナーリスを行方を探すことになった。統治は任せたと言われては、ティリオンは従うしかない。そこへやってきたのは、ヴォランティスで別れたきりになっていたヴァリスだった。
分裂寸前の町を鎮めろといわれて途方に暮れるティリオンに、ヴァリスは言った。
「情報が肝心です。敵の強みと弱み、そして戦略を知ることです。そして、信用できる者とできない者も」
「密告者を束ねることができる者がいればな」
「そうですね。気高き古代の町が、暴力と腐敗と欺瞞にあえいでいる。まるで巨大な野獣のようにね。手なづけられる者は、そう多くはないでしょう」
ティリオンは他人事のように話す元・諜報機関のトップに言った。
「会いたかったぞ」
「そうでしょうとも」
その頃、デナーリスもまた途方に暮れていた。傷が痛むのか、疲れてしまったのか、空腹のせいなのか……見知らぬ土地でドロゴンが動くのを止めてしまったのだ。仕方なくデナーリスは食糧をもとめて歩き出す。しかし彼女を待っていたのは食糧ではなく、どこかの騎馬民族たちだった。デナーリスは数千という騎馬に囲まれてしまった。
キングズ・ランディング
暗黒房(ブラックセル)の幽閉生活によって精魂尽き果てたサーセイは、雀聖下(ハイ・スパロー)の前でランセルと肉体関係を持っていたことを認め、赦しを乞う。しかし、王家の子どもたちがロバート王との子ではなく近親相姦による不義の子だという告発については「真実のかけらもない。汚らわしい」と否定したため、雀聖下(ハイ・スパロー)は裁判によって真偽を明らかにすると告げた。そして慈母の慈悲によってサーセイが赤の王城(レッド・キープ)に戻ることも許可した。
サーセイは涙を流して感謝したが、その前に贖罪を済まさなければならなかった。サーセイは女司祭たちに体を拭かれ、髪をカミソリで短く切られて民衆の前に引っ立てられた。雀聖下(ハイ・スパロー)が伝える。
「これより罪人が通ります。罪人の名はラニスター家のサーセイ。トメン王陛下の母で亡きロバート王の陛下の妻。この者は虚偽の証言と姦通の罪で告発された。そして罪を告白し許しを乞うた。改悛を示すため、すべての自尊心を棄て、虚飾をそぎ落とし、神々が創られたままの姿をさらけ出す。彼女は謙虚な心を示し、秘め事を棄て、神々と民の前に裸の自分をさらす」
そして贖罪の道行きが行われた。女司祭に衣服を剥ぎ取られたサーセイは、恐る恐る石段を下りていく。雀(スパロー)が先導し、女司祭が鐘を鳴らしながら「辱めを」と繰り返す。
民衆は道を開けるが、口々にサーセイを罵る。
「あばずれ!」「嘘つき」「罪人」「くたばれ!」「汚らわしい」「淫乱女」「俺はラニスターだ!しゃぶれ!」
馬の糞や腐った果物、野菜が容赦なくぶつけられる。つばを吐きかけられる。それでもサーセイは歩むのを止めず、足を真っ赤に染めながら赤の王城(レッド・キープ)に辿り着き、涙を流しながら門をくぐった。
真っ先に駆け寄り、汚れた身体をマントで覆ったのはクァイバーンだった。
「陛下。よく戻られました。さあ、中で足の手当をしましょう」
そして新しい”王の楯(キングズ・カード)”を紹介した。金色の鎧に身を包んだ騎士は何も言わずにサーセイを抱き上げた。それはクァイバーンの魔術によって死の淵から蘇ったグレガー・クレゲインだった。
「彼は沈黙の誓いをたてました。陛下の敵が息絶え、邪悪な者が追放されるまで、口を聞かぬと誓ったのです」
黒の城(カースル・ブラック)
ジョン・スノウはサムウェル・ターリーに堅牢な家(ハードホーム)での出来事を話して聞かせ「俺は野人を救うために兄弟を犠牲にした最初の総帥で、最も憎まれている男だ」と自嘲する。そんなジョンにサムは、オールドタウンにあるシタデル(知識の城)に行かせてほしいと頼む。世界最大の図書館で歴史や戦略、治療法を学び、エイモンのようなメイスター(学匠)となって戻って来たいと。ジョンは信頼できる仲間がいなくなるのは辛いと本音を漏らすが、”男”になったサムを快く送り出した。
スタニスのために兵と馬を出せと迫るダヴォスに「野人は出せない」と、ジョンはきっぱりと断る。ダヴォスはなおも交渉を続けようとするが、疲れ切った顔をしたメリサンドルがやってきたことによって中断。ダヴォスはスタニスとシリーンの安否を訊ねるが、メリサンドルは何も言わずに目を伏せた。
ジョンが北部の諸侯たちからの「人材は提供できない」という返事を読んでため息をついていると、オリーが部屋に飛び込んできて「叔父上(ベンジェン・スターク)の情報を持っている野人がいました」と報告。ジョンはすぐに中庭に向かう。しかし、これは罠だった。中庭には”反逆者”と書かれた磔台があり、その周りを10数人の守人たちが囲んでいた。
「守人のため」
そう言ってジョンの身体を真っ先に剣で貫いたのはアリザー・ソーンだった。野人を迎え入れたことに賛同できなかった彼らは次々にジョンに剣を浴びせ、オリーが涙を流しながらとどめをさした。流れ出る血が雪を染めていく。ジョンは夜空を見上げたまま絶命した。
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